NOVELIFE

読了した小説のささやかな記録。

『パークライフ』吉田修一


★★★★☆


つい最近、仕事関係で知り合った方が、僕と同じ名前だった。お互いにびっくりして、笑った。一気に近しく感じた。中学の時に同じ学年に一人いたんだけど、それ以来だった。中々出会うことってない。


と思ってたんだけど、また出会った。まあ、今回は小説の中の登場人物だけど。まあ、どうでもいい話だけど、ちょっと嬉しかったってこと。笑


さて。なんか最近はいわゆる大衆小説ばかり読んでいたから、今回読んだものは、久々に文学に触れたなって感じの小説だった。吉田修一さんの『パークライフ』。芥川賞受賞作


久々すぎて、最初はどうも雲を掴むような感じで、フワフワと。やはりその辺は、大衆小説とは違うなと思った。どっちがいいとかじゃなくね。


でも、リハビリにはちょうど良かったな。洒脱な雰囲気はありながら気取り過ぎず、感じ取りやすい文体で、戸惑ったのは最初だけで、後はスッと入り込めた。ダラダラ長くなくて、短いのも良かった。


見ているものと見えているものは違う。同じ場所にいながらも、見えているものは、お互い違う。男と女の違いもあるのかもしれない。その微妙な差が切なかったけど、不思議と温かい気持ちにもなった。


『空中ブランコ』奥田英朗


★★★★☆


やっとこさ、仕事のほうも落ち着いて、気持ちにも余裕が出てきた。ここのところ、あまり本も読む時間を取れてなかったけど、仕事の休憩時間などに、ちびちびと読んでた短編が、奥田英朗さんの『空中ブランコ』。


前作の『イン・ザ・プール』と同様、やはり、読んだら気持ちが軽くなった。そして、何となく仕事も頑張れた。気がする。主人公の精神科医、伊良部氏に感謝。


何だかね。ちょっとしたことなんだよね。何かが狂い始めるきっかけって。しかも気付かないうちに蝕まれる。で、どうしたらいいか分からず、ますます深みにハマる。水面は遥か上方。


自分独りでは、解決出来ないことってやっぱりある。他人に頼ることも必要。他人の思わぬ言葉ひとつで、足に付けられた重しが外され、ふわーっと、水面まで一気に浮き上がれたりする。


この小説の最後の短編『女流作家』の中の言葉。

人間の宝物は言葉だ。


これ。そう、これ。正にこれ。言葉で表現することが出来るという素晴らしさ。そして多分、このような言葉に出会うために本を読んでいるんだろう。それを誰かに話したくてブログを書いているのだろう。


良い言葉に出会ったら、使っていきたいと思う。ブログだけじゃなくて、生身の人間にも。大切な人に伝えたい。なんて、カッコつけてみた。


あ、因みに直木賞受賞作。



感想

相変わらず伊良部先生はぶっ飛んでいた。助手のマユミちゃんの冷め具合もなんら変わりない。と、思いきや最後。グッときた。周りに流されず、良いものはいいのだ。


あと、『女流作家』という短編を読んで、奥田英朗さんの小説に対する考え方が良く分かったような気がする。


やはりこの方は、物語よりも人を描くことに重きを置いているのかなと思った。物語は其処にある、という感じ。勝手に生まれるというか。勿論、構成は練っているのだとは思うけど。


前にも書いたけど、奥田英朗さんは、人間を描くのが、とても上手だなと感じる作家さんの一人だ。

『私に似た人』貫井徳郎


★★★☆☆


想像力と行動力。どっちも大事だと思うんだけど、片方が強いと、もう片方は弱くなる。反比例の関係にある気がする。


行動を起こさない人に、想像力がないというわけではない。むしろ、想像力があるが故に行動に移せないのかなとも思う。


多分、皆どちらかに少し偏ってるだけなんだろうな。


バランスとって、上手くやってけばいいんだろうけど、なかなか難しい。


まあ、何でもそうなんだろうけど、バランス感覚って大事だね。読書って、自分の偏って傾いた感覚を何となく平行に戻してくれるような気がする。


とことん傾かせてくれるのもあるけど。笑


今回読んだ貫井徳郎さんの『私に似た人』は、平行に戻してくれるタイプだったかな。




感想

いわゆる群像劇になるのかな?様々な登場人物それぞれのエピソードが語られて、それらが繋がっていく。そして最後に驚きが、という感じ。


特に無駄な表現がなく、テンポがいいので、かなり読みやすく飽きなかった。ただ、エンターテイメント性はあまり強くない。程々に考えさせられ、程々に面白かった。


「小口テロ」が頻発するようになった日本で、そのテロに関わることになった人たちの話なんだけど、どの登場人物にも、少なからず共感できる部分があった。


自分も、どの立場になるかはわからないけど、関わる可能性はあるなと。


テロは悪。悪いものは悪い、というのは簡単だけど、その背景を想像しないのはいけないね。なぜ、そのような行動を起こしたのか。誰が起こさせたのか。テロを肯定するわけでは決してないけど。


ああ。平和に暮らしたいもんだね。やっぱ晴耕雨読な暮らしが、僕の理想。


さ。寝よ。

『刑事のまなざし』薬丸岳


★★★★☆


週間天気予報に、ついに雪マーク。いよいよか、という感じ。北国の人間にとって、厳しい季節がやって来る。スタッドレスタイヤへの交換はお早めに。


そんな寒々しい季節は、家で大人しく読書でもしてるのが一番いい。ついでに熱燗もいいね。とはいえ、なかなかそんな時間など持てないのが現状だけども。


まあ、わざわざそんな時間を作らなくてもいいのが、読書の良いところでもあったりする。特にエッセイや、短編集なんか最適だよね。


映画なんかを観るとしたら、そのための時間を作らなきゃいけないけど、短編小説やエッセイは、ちょっと手の空いた時にぺぺっと読める。ま、長編小説も読めるだろうけど、あんまり分けて読みたくないもんね。内容忘れちゃう。笑


読書というものに出会った初めの頃は、短編集や、長くても中編くらいの小説を読むことが多かったなあ。


本を読みたいけど、なかなか手を出せないなんて人は、まず短編集からっていうのも有りかもね。


てことで、今回読んだのは、短編集だよってこと。




感想

刑事ってのは、人を疑うのが仕事。大変だ。人に疑われるっていうのは、嫌な気持ちになるものだし。それをしなくてはいけないのだから。


でも、疑うっていうのは大事なことだと思う。疑わない=想像力がない、とも言える。この人は、本当はどう考えているのだろうか。表向きはこう見えるけど、本当はどういう人なのだろうか。世の中で起こっている様々な事件などに対してもそうだろう。


人を嫌な気持ちにさせないような、疑いの気持ちは持っていたいと思う。


この小説の主人公の夏目刑事のように。


短編なので、登場人物に深くは入り込まない(夏目刑事以外)。けど、しっかりした構成とストーリーで感動させてくれる。


薬丸岳さんは、長編も短編もいい。テーマも似通ったものが多いから、どれから読んでもいいような気がする。オススメの作家さんだ。

『最悪』奥田英朗

うわぁ最悪。。

という言葉が、つい、口から漏れた。そして、タイトルを思い苦笑。その通りだと思った。

でもね。タイトルは「最悪」だけど、読後感は「最高」。ものすごく面白かった。



感想

なんという人物描写の巧みさ。人間の悪意や愚かさなど黒い部分を上手に表現する作家さんは結構いるけど、奥田英朗さんの小説には、なんというか、人間そのものが巧みに描かれているように感じる。すごい。リアル。


序盤を読んでいるときは、それ要らないんじゃない?っていう描写がちょこちょこあったんだけど、それも必要だったんだなって、後々になって気付かされた。


展開も面白いんだけど、それどころじゃない。兎にも角にも、登場人物たちにかなり感情移入してしまった。ストーリーに引っ張られるっていうよりも、登場人物に連れて行かれたという感じ。


これは傑作。

『イン・ザ・プール』奥田英朗


なんだか疲れてるな。なんて時、僕は浅田次郎さんの短編小説を読む。ほっ、とする。心が浄化されたような気がする。


趣は全然違うけど、今回読んだ奥田英朗さんの『イン・ザ・プール』にも、そんな作用があった。スッキリ晴れた。心が。今日は仕事が楽しかった。


作中に登場する患者さんたちではなく、救われたのは僕だった。癪だけど、伊良部先生に感謝しとく。



感想

こんな精神科医いるわけないだろう。と思わせる、突飛な言動をする伊良部先生。実際にいたら、大変かもしれない。でも、腹は立つけど、羨ましい。そんな魅力。


とにかく登場人物たちの心理描写が秀逸。みな自分と微妙に重なる。だからこそ、伊良部先生の言動から、感じるものは大きい。尊敬に値する。


精神的な病いは誰もが少なからず抱えていると思う。それに自分で気づいてしまった時、不安に感じた時、この小説を読んでみるのも良いかもしれない。


ただ。効果は、保証しない。笑

『ロスト・ケア』葉真中顕

分かっていた。分かっている。分かっているのに。
人は立ちすくむばかりだ。
正しい者は一人もいない。楽園ではないこの世界で生きる者は、一人残らず罪人だ。
(本文より)


人はいつか死ぬ。分かっていることだ。それは自分だけではない。皆そうだ。もちろん家族も。


立ちすくむばかりで何もしないのは罪なのかもしれない。今出来ることは多分ある。避けることのできない未来から目を背けてはいけないのだと思う。でもね。なかなか難しいことだと思う。逃げたいし、ただ楽しく生きたい。


でも、逃げられない人達もいる。そういう人達がいるということは、想像出来る人間でいたい。


だからこそ、このような小説を読む意味があるのかなと思う。考えるために。思い出すために。


まあね。人生楽しんだもん勝ちだけどさ。たまにこんな小説を読んで考える時間を持つのもいいよね。ってことで。


感想

介護に関わる人達の苦悩。介護施設の裏事情。とてもわかりやすい文章で描かれていた。


もし、ミステリの形態をとっていなければ、もっと深く染み込んでくるような小説になっていたのではないかとも思う。これは仕方がないところだけど、僕としては、なんだか勿体無いなと思ってしまった。


まあ、その分とても読みやすいので、手に取りやすい小説であると思う。うん。構成力はすごい。


ブログを書いているとよくわかる。自分の構成力の無さ。笑